2020年3月より、COVID-19 のため、練習が不可能となった。 さらに、歌うという動作はマイクロ飛沫を多く出すそうで、当分、練習ができそうもない。 6月の現時点でも、まったく見通しがつかない。 そこで、4月より、インターネット越しのオンライン練習を開始した。 週1回のオンライン練習を積み重ねることで、徐々に新しいスタイルの練習法が確立しつつある。 再度、このような事態になった場合に備え、直に同じ体制がとれるように、備忘録として残しておく。
オンライン練習というと ZOOM などの遠隔会議システムを使うのが一般的であるが、こうした同期型(ホストとクライアントが同時に参加するタイプ)と、非同期型(ホストからタスクをクライアントに投げ、クライアントが異なる時刻にそれを処理し戻す型)に二種類がある。
我々はこの両方を有機的に結び付けることで、高い練習効果を上げることができた。 具体的には、遠隔会議システム(「オンライン練習」と言っておこう)で、曲の総浚えを行う。 そして、その曲の歌を各人に録音してもらい、多重録音の手法により、合唱に仕上げる(いわゆる「リモート合唱」)。
次回のオンライン練習で、リモート合唱の結果を聴きながら、例えば、パート単位の批評を行う。 また、その結果から指揮者が感じた問題点を含め、それをオンライン練習に生かす。
- オンライン練習
遠隔講義システムには10ms〜秒のオーダーの伝達遅延(レイテンシー)があり、しかもそらが各人ごとに異なる。 また、ホスト(指揮者側とする)で伴奏を流し、それにクライアント側の各人が合せて歌うと、ホストにも各クライアントにも異なる遅延の声が混ざって聞こえてくる。 このため、合唱には不向きであるが、他に適切なソフトもないので、遅延のあることを前提に、遠隔講義システムを使わざるをえない。
Yamaha の Netduetto はこの遅延を少なくし、かつ全員にほぼ同じ遅延を与えるようであるが、テンポの速い曲にはやはり使いづらい。 さらに、Netduetto には参加者5名の上限(2グループを連結すれば10名参加可能であるが、なかなくうまく行かない)があるが、我々のグループは20名程度であるので、無理であった。
種々の遠隔会議システムを試したが、ZOOM が相互に曲を流した場合の忠実度という点では、ベストチョイスのようであり、我々はそれを採用した。 また無償のソフトであっても、100名までの参加者が収容可能であり、それも大きなメリットである。 さりながら、同時合唱はできないので、ホストから一方的に伴奏を流し、各クライアントは音をミュート(消す)して、歌ってもらう。 つまりは、自主練のお手伝いということになる。
- ZOOM 会議室の開始
ZOOM は Win および Mac の PC、および iPhone、Android など主要なスマホで利用可能である。 いずれにせよ、ホスト、クライアント共、専用アプリをダウンロードする必要がある。
ホストを行う者は、参加者の管理、映像の呈示などの必要が生じることから、PC による利用が望ましい。 クライアントは PC、スマホのいずれでも可能である。 ホストは ZOOM アカウントを取得する必要がある。 氏名、メールアドレス、パスワードの入力が要求される。 ソフト起動時にホストの名前のところの設定で、「ブレイクアウトルームを利用可」にしておくと、パート練習などが可能となる。
ZOOM には無償のものと有償のものがあり、無償の場合には会議開始後40分で利用が停止する。 しかし、同じ会議室を再度起動すれば、その都度40分ずつの会議の開催が可能である。 なお、初・中等教育機関、また現在一時的に ac.jp のメールアカウントを持つ高等教育機関のメンバーがホストを行う場合にはこの制限はない(放送大学は一括契約されいるので、学生利用に対しても無制限である)。 いずれにせよ、複数回の利用が明かな場合には、定期的利用としておくのがよい。
ZOOMの「ホーム」のタグを選び、「スケジュール」のアイコンをクリックし、会議室を設定する。 セキュリティの関係からパスワードを設定する方がよい。 開催内容をコピーすることができるので、それを利用して開催通知のメールを発行する。 始めて利用するクライアントに対しては、この開催通知の URL をクリックし、促される ZOOM アプリのインストールを行うように指導する(パスワードは URL に埋め込まれるため、クライアントにとっては便利である)。
- 会議室の開始
会議室はホストによってのみ開始できる。 このため、定刻前に会議室を開ける必要がある。 また、参加者の入室許可はホストが行う。 始めてのクライアントが居る場合には、設定に苦労するため、早目に開始し、ビデオ ON や、マイク ON の設定を促す。
合唱を行う場合には、マイク(ミュートと表示されている)の右の「^」をクリックし、現われた設定画面でマイク音量の設定をさせる。 下4つのクリック欄のうち、下から3番目以外をすべてクリックさせる。 また、同設定画面の右下の「詳細」をクリックし、「オーディオ処理」の三個所の窓を「無効化」、「無効化」、「自動」にするように指導する。
- 会議中の作業
Youtube や Musescore などを利用して、伴奏を流し、それに合せて指揮を行い、皆に歌ってもらう。 これらを、流すには「画面を共有」し、当該ウインドウを共有する。 ピアノ伴奏も OK である。 私はピアノが弾けないため、私自身はやったことがないが、ピアノができる団員一名のみをミュート対象から外して、実施した経験はある。 なお、歌ってもらう時に、クライアントが声を出すと、遅延のある音が全員に聞こえてしまい混乱するため、「全員をミュート」にする方がよいだろう。 このため、自主練の支援にしかならないのである。
練習では、合唱で陥りやすいところを指摘する。 また、歌いにくかった部分をクライアントから自己申告してもらい、そこを繰り返し練習する。 このフィードバックがうまく周り出すと、練習が効率的になる。 当り前であるが、ハーモニーを楽しんだり、アンサンブルの練習はまったくできない。 しかし、各人の自主練に相当する練習量は増えるので、リアルな練習に戻った時の回復は速いと思われる。
次に述べるリモート合唱の成果の評価を行うと、自覚が上昇し発言も増えてくる。
- 会議の終了
各人が個別に退出するのはいつでも可能であるが、会議全体の終了はホストだけができる。
- ZOOM 会議室の開始
- リモート合唱
上記のオンライン練習と併行して実施しているのが、多重録音によるリモート合唱である。 具体的には、クライアント全員に対し、同じ伴奏をファイル化したのを配布し、それに合せて各人が自分のパートを歌ってもらう。 その録音を集めて、音量をタイミングを合せて編集してリモート合唱として纏める。 必要なものは、各人の負担の少い録音ソフトと20録音ぐらいを合併して編集することのできる編集ソフトである。 幸いにして、いずれも無償ソフトが使えた。
全員に配布する伴奏については、後述のように Musescore を利用している。
録音ソフトについては若干問題がある。 スマホの録音ソフトは聴きながら録音のできるものが少いからである。 我々のグループのクライアントの多くは PC で音を聴き、スマホで録音したようである。 一般的に iPhone の「ボイスメモ」は綺麗に録音できるようである。 なお、PCについては、マルチタスクが処理できることから、音楽を聴きながら録音することは容易である。 いずれの場合でも伴奏が一緒に録音されると、編集結果で伴奏が大きくなり過ぎるため、イヤホンを使うように指導している。
編集ソフトとして、私自身は Mac の GarageBand を利用した。 これはファイル形式を変えれば iPhone に搭載された GarageBand も利用できるし、慣れると非常に使いやすく、ありがたいことである。 Wins なら Audacity という無料ソフトが使い易い。
- 伴奏の作成ソフト Musescore
伴奏の多くは Musescore(以下 MS と略す)で作成している。 これは無償の楽譜作成ソフトであるが、再生も可能であり、pdf 楽譜、MIDI 音源、mp3 などのファイルが出力できる。 音符をパート分+ピアノ分だけ打ち込むのは楽ではないが、一旦打ち込んでしまえば、速度を変えて演奏可でもあり、移調も簡単である。 またパート譜も簡単に出力できるため、極めて便利である。 ただし、特のアカペラでリズムが取りづらい場合には、MS メトロノーム機能や予拍機能を利用するが、これらはエキスポートでは音源に入れてくれないため、PC で出した音を PC、iPad(音がよい)、iPhone で録音して、配布音源とした。 本合唱団では、各団員に MS をインストールしてもらい、自主練に利用してもらっている。 Musescore の使い方参照。
Youtube の伴奏のみの録音も便利である。 また、場合によっては合唱付き録音に重ねて歌う練習も曲想などを理解する上では便利である。
- 編集ソフト GarageBand
MS の伴奏は mp3 で引き渡す(mid で引き渡すと rit. やフェルマータでタイミングが合わなくなる)。 新規 GarageBand ファイルを任意のトラックを設定して開き、各音源ファイルをドラッグすれば新たなトラックが作られる。 最初の新規トラックはdelすればよい。 各人の用意した音源は色々な音量なので、以下の基準で調整する
音量は MS mid 入力および各録音音源に対して、各最大音量に対し、以下のように調整
ピアノ高音部は少し黄色が出るぐらい(MS mid で+1.8dB)
ピアノ低音部は緑色の範囲(MS mid で+0.0dB)
MSで作成した合唱全体はかなり黄色が出るぐらい(MS mp3 で+0.0dB)
MSで作成したピアノ伴奏は少し黄色が出るぐらい(MS mp3 で+0.0dB)合唱の各パートはまず緑色の範囲(MS mid で+1.8dB)
次に、各パートの人数に合せ、そこからさらに音量を下げる。
2人(-3dB)、3人:(-4.7dB)、4人=2x2:(-3-3=-6dB)、
5人=10/2(10-3=7dB)、6人=2x3(-3-4.7=-7.7dB)、
7人(-8.5dB)、以下同様。 ただし、この通り行うと、ピアノの音量が大き目、Sop. が聴き難いという評があったので、現在は Sop. を+3dBとしている。メニューの「共有」から「ファイル」を選択し、mp3 で出力する。 さらに、Facebook などで共有するためには動画でなければならないため、静止画ムービーソフトなどを利用して mp4 に変換する。
- 伴奏の作成ソフト Musescore