岡部 洋一 / 放送大学
okabe (at) u-air. ac. jp最終更新日: (起草: 2004年3月20日)
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「複式簿記」の「基礎篇」を 「素人が書いた複式簿記」オーム社として 発刊しました (Amazon)。 Excel の複式簿記 (家計簿, 企業用) を公開しました。 内部の勘定科目(編集可) 以外、同じものです。
[A] 単式簿記は現金出納帳のことで、現金の出入りだけを記帳しますが、 複式簿記ではすべての財産の変化を記帳します。 現金以外の預金などすべての財産を、何らかの金額換算をして対象とします。 現金出納帳には、前期からの繰越金と次期への繰越金がありますが、 複式簿記では、繰越金の替りに貸借対照表と呼ばれる すべての財産を記載したものを使います。
現金出納帳の日頃の記帳の部分は仕訳帳と呼びます。 現金出納帳で収入があったときには、左欄に金額を記帳しますが、 複式簿記では、左欄に増加した財産と金額、 右欄にその要因と金額 (左欄の金額と同額) を一行に記帳します。 要因とは、個人の場合には、!給与、!利息、... などでしょう。 法人の場合には、!売上、!利息、... などでしょう。 ! は、財産と区別するために、私が付けた工夫です。 このように、一つの処理 (取引という) に対し、二つの記帳をするため、 複式簿記と言います。
財産の減少の場合には、右欄に減少した財産と金額 (正数)、 左欄にその要因と金額 (右欄の金額と同額) を一行に記帳します。 また、貯金すると、現金財産が減って、預金財産が増えます。 この場合には左欄に増加した財産と金額、右欄に減少した財産と金額を記帳します。 このように、左右は常に平衡がとれ、常に「平衡の原理」が成立するのが、 複式簿記の特長です (詳細)。
会計年度末には、前期繰越金に対応する前期貸借対照表と、 仕訳帳を通して、項目ごとにまとめます。 要因だけをまとめると、右欄に財産増加要因、左欄に財産減少要因が並びますが、 これを損益計算書と呼びます。 財産は左右の差額を計算することになりますが、 いわば、全財産の次期への繰越量が計算できます。 これを、当期の貸借対照表と呼びます。
[A] 備品や在庫の商品もすべて、財産です (詳細)。
まず、購入時の金額の財産とみなしますが、 備品は段々価値が下っていくという処理をします。 また、商品は、通常、その時点の仕入値の相場に合わせて価値を変えるという 処理をします (詳細)。
また借金も負の財産と理解します (詳細)。
なお、購入後売買の可能性のない使いっぱなしの鉛筆などの消耗品は、 財産とは扱いません。
[A] 扱えます。 ただし、増えた財産だけを左に記帳すると、平衡がとれなくなるので、 その金額に見合う名目の項目を右に置いて、平衡をとります。 こうした財産の増減要因を示す科目を名目勘定といい、 通常の財産である実在勘定と区別します。
右側に現われる財産増の要因を示す名目勘定を「収益」と呼びます。 商品を仕入たときの価格よりも高く売った場合にも収益が発生します。 逆に、財産が純粋に減った場合には、減った財産分を右側に書きますが、 それだけでは平衡が崩れるので、左側に同額の名目勘定を置きます。 左側に現われる財産減の要因を示す名目勘定を「費用」と呼びます。 消耗品購入や従業員の給与支払などは費用として扱います。 私は名目勘定に「!」記号を付すことにより、 実在勘定と明白な区別をつけて説明をしています (詳細)。
[A] はい、矛盾しています。 同じく、逆にお金を貸すと、左側の欄に貸付金という科目を立てますが、 左側は借方と言います。 いずれも欄の名前と矛盾しています。 実は、これらの用語は、複式簿記の発明されたころ、 客の立場で名付けられたためのようです。 意味を考えず丸覚えしてください (詳細は ここ の参考欄)。
[A] あります。左借方 (debit) には前払金といった科目が置かれます。 デビットカードは、まず一定のお金をカードにチャージしてから、 買物の際、それを引き落とします (デビットカードへのチャージは買物の直前に行なうこともあります)。
逆に、右貸方 (credit) には未払金といった科目が置かれます。 クレジットカードは、まず買物をしても、 お金は「つけ」にして未払状態にしておき、後から精算します。 つまり、利用する我々から見ると、複式簿記におけるように、 やはり反転した概念です。
なお、カード会社から見ると、クレジットカードは金貸しカード、 デビットカードは金借りカードと、言葉通りになっています。
[A] 仕訳には、1) 財産移動を表わすもの、 2) !収益と組み合わせて財産増を表わすもの、 3) !費用と組み合わせて財産減を表わすもの、の三種類があります。 ある会計期間で、トータルとして !収益が !費用に勝ったときには、 利益 (財産増) があったわけで、!収益 - !費用 を当期利益と呼びます。 逆に !費用が !収益に勝ったときには、損失 (財産減) があったわけで、 !費用 - !収益 を当期損失と呼びます (詳細は ここ か ここ)。
[A] 現金などの正の財産を資産と言います。 また借入金などの負の財産を負債と呼びます。 資産 - 負債 の純財産を純資産と言います。 例えば、会社創業の際、投資家から出資してもらい、 純粋に現金資産のみが形成されたとすると、 この現金資産と同額の純資産があることになります。 純資産は、次の期の経営を支えるものなので、資本とも言います。
また、ある会計期間に当期利益が生じたとすると、当期利益は 資産増 - 負債増 ですから、結局、純資産増となります。 つまり、期末の純資産 = 期首の純資産 + 当期利益 となります (詳細)。
[A] 財産である実在勘定と名目勘定をまとめると左右の平衡がとれますが、 実在勘定だけでは平衡はとれません。 さて、資産 (正の財産) が負債 (負の財産) に勝っているとき、 左借方の方が右貸方より重くなりますね。 しかし、複式簿記では「平衡の原理」が成立しなければなりません。 そこで、右貸方に重しを追加して平衡をとります。 この追加すべき重さは 資産 - 負債、つまり純資産ですよね。 そこで、右貸方に負債と純資産を置くことで、資産と平衡をとります。 このように平衡をとるために入れる項を平衡項あるいは平衡残高と言います。
資産は大きい程、負債は小さい程好ましいのですが、純資産はどうでしょう。 純資産は定義から明かなように、純財産ですから、大きい程よいのです。 右貸方にあるので誤解されやすいのですが、気をつけてください。 その意味で、私の説明では、平衡項には「*」の記号を付けて、特別扱いしています。 同様に、!収益と !費用の差の !*当期利益 も平衡項なので、 !費用の側の左借方に置きます。 このように、平衡項は常識とは逆の側に置かれることを、 よく理解してください (詳細)。
[A] 資本とは純資産のことです。 資本金とは、投資家の出した出資額です。 創業の際、出資額に応じた資産が作られますから、 その時点では 資本 (= 純資産) = 資本金 です。 創業時に借入金も設定して資産を増加させたとしても、資本 = 資本金 が成立します。 しかし、その後、企業は事業により利益を上げていきますから、 資本はその分、増えていきます。 つまり、資本金とは資本のうち、投資家が出した分を指します。
平衡残高である *純資産 一つで議論してもよいのですが、その内で、 投資家の出した分を特に *資本金 として明示しておこうというものです。 その他の資本は別の名前を付けます。 例えば、*当期利益です。 なお *当期利益は期末に *利益剰余金という名前に変えて、次期に繰越します (詳細)。
[A] 備品は、長く使う程、その価値が落ちていきます。 この価値の落ちることを減価償却と言います。 しかし、その価値を正しく評価するのは容易なことではありません。 そこで、通常は定められた期間で一定に下げたり、等比級数的に下げたりします。 減価償却は、その会計期間での !損失になり、その結果、 法人税などに影響が出てくるため、その算定法は、法律で定められています (詳細)。
[A] 商品もその価値がどんどん変化していきます。 これを月単位ぐらいで再評価することを棚卸と言います。 もっとも常識的な手法は、その時点での仕入価格の時価を持つとするものです。 この評価も税額に影響があるため、勝手な評価は許されていません (詳細)。
[A] 貸したお金の取りっ逸れや、退職金などは、ある確率で将来、 !費用となるものです。 こうしたものを、あらかじめ先払的処理をしておくものを引当金といいます。 貸倒引当金や退職給与引当金などがありますが、 貸倒引当金だけは資産に負数として入れ、 その他退職給与引当金などは負債に正数として記載する習慣があります (詳細)。
[A] いずれも *資本 を適宜分類しておこうというもので、 純資産 (資本 = 資産 - 負債) を無駄遣いしないように、 枠を嵌める効果があります。 *資本準備金は法律により義務付けられている枠です。 また *各種積立金は将来発生する特定な出費に対する枠です。*利益剰余金は、 将来比較的自由に使える枠を指します (詳細)。
[A] 現金出納帳は仕訳帳で、キャッシュフロー計算書はそれを会計期間で 項目ごとにまとめたものですので確かに似ています。 ただし、キャッシュフロー計算書では 現金だけでなく預金や即金性のある有価證券など、 三ヶ月以内に現金化できる資産をすべてキャッシュとして扱います。
さらに、その根底に経営概念があります。 まず、キャッシュ以外の財産の購入などは、 すべて、キャッシュを増加するための投資であるという立場をとります。 経営とは、キャッシュを使って備品などの投資をし、 その結果作られた製品を売り上げ、営業キャッシュを回収することである。 その結果、余計に得られたキャッシュを投資家へ配当したり、 負債の返済や利息の支払いに使い (これらは財務キャッシュといいます)、 さらに余ったキャッシュが次期に繰り越されるというという立場をとります。 利益の最大化でなく、 キャッシュの最大化を意識した経営をキャッシュフロー経営と言います。
キャッシュフロー計算書は、これをまとめたものであるという立場から、 投資によるキャッシュフロー、営業によるキャッシュフロー、 財務によるキャッシュフロー、 その結果のキャッシュの増減という形でまとめます (詳細)。