電子基礎物理 試験問題 2002/11/27 岡部 洋一 [問題] 以下の各問に答えよ。(100点満点) 1. 量子力学の状態は粒子性と波動性を併せ持つと言われているが、これはどう いう意味か、200字以内で定性的に説明せよ。(20点) [解答] どんな量子も数えることができ(粒子性)、かつその発見確率のもとに は、干渉性を有する加算的な確率振幅なる概念を有していること。また、粒 子として性質であるエネルギーと運動量が、波動としての性質である振動数 と波数と Einstein, De-Broglie の関係で結びつけられる。 2. 同じ二原子からなる分子上の一電子について、それぞれの原子付近に局在す る電子状態を |1>、|2> として、次の各問に答えよ。単に答を示すのみ でなく、考え方も示せ。 1) この二状態を基底状態として議論したい。この二状態に成立する式を示せ。 (10点) [解答] E_0 を拘束エネルギー、h を Planck定数/2π とする場合、 ih d<1|Ψ(t)>/dt=E_0<1|Ψ(t)>, ih d<2|Ψ(t)>/dt=E_0<2|Ψ(t)> 2) |1>、|2> の間に遷移のある場合の Hamiltonian を示せ。(10点) [解答] 遷移の要素を A とするとき、 ih d<1|Ψ(t)>/dt=E_0<1|Ψ(t)>+A<2|Ψ(t)>, ih d<2|Ψ(t)>/dt=A<1|Ψ(t)>+E_0<2|Ψ(t)> 3) この系の定常状態を求めよ (固有値問題を解け)。複数ある場合にはエネ ルギーの低いものから二つを示せ。またこれら定常状態に対し、二つの場 所での発見確率を図示せよ。(15点) [解答] 色々な解き方があるが、行列の固有値問題として解いておこう。 ih d/dt(<1|Ψ(t)>)=(E_0 A)(<1|Ψ(t)>) (<2|Ψ(t)>) (A E_0)(<2|Ψ(t)>) と書ける。( ) は二行にわたると読んで欲しい。 |Ψ(t)>=|Ψ>exp(E t/ih) と置くと、 E(<1|Ψ>)=(E_0 A)(<1|Ψ>) (<2|Ψ>) (A E_0)(<2|Ψ>) となり、右辺の Hamiltonian 行列の固有値問題となる。 |E_0-E A| = 0 |A E_0-E| を解いて、E=E_h (=E_0+A) と E_l (=E_0-A) の二つの固有値が得られる (二つのみ)。それぞれの固有値に対する固有状態 |E_h> および |E_l> は、次のようである。 <1|E_h>=1/√2 <1|E_l>=1/√2 <2|E_h>=1/√2 <2|E_l>=-1/√2 固有状態 (定常状態) |E_h> の二つの場所における発見確率は、1/2 で一定。また |E_l> の二つの場所における発見確率も、1/2 で一定。 (図示は略す) 4) 二つの場所での発見確率が時間とともに変化するようにしたい。どのよう にしたらよいか、一つの典型例を示し、時間変化が分るように図示せよ。 (10点) [解答] 二つの状態の混ざったものは、定常状態ではなくなり、時間と共に変 化する。例えば、|Ψ(0)>=(|E_h>+|E_l>)/√2 とすると、 |Ψ(t)>=[exp(E_h t/ih)|E_h>+exp(E_l t/ih)|E_l>]/√2 となる。これから <1|Ψ(t)>=[exp(E_h t/ih)<1|E_h>+exp(E_l t/ih]<1|E_l>)/√2 =[exp(E_h t/ih)+exp(E_l t/ih)]/2, <2|Ψ(t)>=[exp(E_h t/ih)<2|E_h>+exp(E_l t/ih)<2|E_l>]/√2 =[exp(E_h t/ih)-exp(E_l t/ih)]/2, さらに、 P(Ψ(t)→1)=[1+cos(E_h-E_l)t/h)]/2, P(Ψ(t)→2)=[1-cos(E_h-E_l)t/h)]/2 となり、それぞれ、補完的に変動する(図示略) 3. 極めて深い井戸型ポテンシャル (0/∂x^2 (井戸内), =0 (井戸外) もちろん、 を Ψ(x,t) と書いてもよい。 2) この系の定常状態を求めよ。複数ある場合にはエネルギーの低いものから 二つを示せ。またこれら定常状態に対し、発見確率を場所の関数として、 図示せよ。(15点) [解答] まず =exp(E t/ih) とすると、微分方程式は E=-(h^2/2m)d^2/dx^2 (井戸内) =0 (井戸外) となる。上の式から正弦波の解が得らえるが、x=0, L で =0 とな る解を探すと、次のようになる。 =sin(nπx/L)/√(L/2), n=1,2,... E_n=(1/2m)(nπh/L)^2 p(E_n→x)=sin^2(nπx/L)/(L/2) このうち、n=1,2 の解を採用すればよい。0〜L に n個のコブのある形に なる (具体的な解答は略。また図示略)。 3) 二つの場所での発見確率が時間とともに変化するようにしたい。どのよう にしたらよいか、一つの典型例を示し、時間変化が分るように図示せよ。 (10点) [解答] 複数の状態の混ざったものは、定常状態ではなくなり、時間と共に変 化する。例えば、|Ψ_(0)> = (|E_1>+|E_2>)/√2 とすると、 |Ψ(t)> = [exp(E_1 t/ih)|E_1>+exp(E_2 t/ih)|E_2>]/√2 となる。これから =[exp(E_1 t/ih)+exp(E_2 t/ih))/√2 =[exp(E_1 t/ih)sin(πx/L)+exp(E_2 t/ih)sin(2πx/L)]/√(L/2) さらに、 P(Ψ(t)→x)=sin^2(πx/L)+sin^2(2πx/L) +2cos[(E_2-E_1)t/ih]sin(πx/L)sin(2πx/L) となり、コブが左に寄ったり、右に寄ったりして振動する(図示略)。